Language: JP/EN

研究内容

主要な研究テーマ


私たちの研究室では、物質の選択的膜輸送を担う膜タンパク質"トランスポーター"を研究対象としています。トランスポーターの構造と機能の理解、分子間相互作用や機能制御機構の解明などを通じ、多様な細胞・組織特異的機能の発現や病態形成におけるトランスポーターの重要性、創薬標的としての意義を広く明らかにしたいと考えています。従来の酵素学的・薬理学的な輸送活性解析に加えて、膜タンパク質に特化したプロテオミクス解析、リン酸化プロテオミクス解析、メタボロミクス解析、遺伝子改変動物の表現型解析などの広範な実験手技を駆使し、分子・細胞レベルから組織・個体レベルまでの生物学的階層を網羅した研究を展開しています。

  

その中でも特に主要な研究テーマが、アミノ酸トランスポーターLAT1(L-type amino acid transporter 1)とがんに関するものです(図)。LAT1の発現は正常組織ではかなり限定的であるのに対して、原発臓器や組織型を問わず多くのがん組織において顕著に亢進しています。また、LAT1の発現とがんの悪性度に相関があることも示されています。LAT1は多くの必須アミノ酸を選択的基質とし、いわば「がん細胞型アミノ酸トランスポーター」として必須アミノ酸を取込み、がん細胞の増殖に寄与しています。私たちの研究室ではこれまでに、LAT1の阻害によって高い抗腫瘍効果が得られることをin vitro、in vivoの実験系で示してきました。現在、新たながん治療薬としてのLAT1阻害薬の実用化を目指した研究開発を進めています。私たちが創製した新たなLAT1阻害薬は、優れた抗腫瘍効果を示し、現在、医師主導治験の実施へ向けた準備を進めています。また同時に、コンパニオン診断薬として、LAT1の輸送基質であるアミノ酸を骨格としたPETプローブの開発にも取り組んでいます。これによって、将来的には同一分子を標的とした治療と診断が可能になり、LAT1阻害薬によるがん治療において高い奏功率の実現が期待されます。

  

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さらに近年、LAT1の基質でもあるロイシン等のアミノ酸は、細胞内代謝調節を司るセリン/スレオニンキナーゼ複合体mTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)の活性化に必須のシグナル分子として注目を集めています。がんや糖尿病等の疾患においては、このmTORC1系が破綻しており、アミノ酸シグナルの異常が病態形成の一因と考えられています。私たちは、LAT1の下流に位置するアミノ酸感知機構と、アミノ酸によって活性化される細胞内シグナル経路、そしてアミノ酸によって制御されている細胞内代謝機能に着目し、その生理的意義や疾患との関連性の解明にも取り組んでいます。特にがんにおいては、上記のLAT1阻害薬の抗腫瘍効果の基盤となる作用機序の全容理解という観点からも欠かすことが出来ないテーマとなっています。また、アミノ酸を直接認識するセンサー分子は、薬物によってその下流のシグナル経路の制御を可能にするため、潜在的価値の高い創薬の標的分子です。関連疾患の治療薬開発に向けた重要な医学的意義を有するアミノ酸センサー分子について、その同定を目指した研究を進めています。